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「車窓に映る君は」

その日のはなし
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帰りの電車の窓に映る顔を見ると

なんて情け無い顔をしているのかと思った。

こんな顔をしたくてこの歳まで生きてきたわけじゃないのに。なんて情け無い顔をしているだと自分の顔に唾を吐きかけたくなる衝動を抑えながらも列車は、次の停車駅で扉を開ける。

プシュー

「ドアを閉めます…ご注意ください。ご注意ください。」

ガタンゴトン

ガタンゴトン

「次の駅は…」

次の駅の名前が呼ばれる。ふとっ座席を見ると先程までいた席の跡をなぞるように見てみる。

その席には、誰かが座っていたんだなと感じる座席クッションの沈んだあとがあった。

今は、もういない。誰かの跡。

ガタンコ゚トン

ガタンコ゚トン

電車は次第に加速をして駅を離れていく。遠くに見える景色が足早にと過ぎ去っていく。近くに見えるものはあっという間に見えなくなっていく。

自分が見てる景色の移り変わりにさえ追いつけない自分になんだか歯がゆい気持ちになった。

どこか置いてかれる自分がいる。

なんだか子どもの頃にも同じような経験をしたことがあった。

「いい子にしてここで待っているんだよ。いいね」

どこかぼんやりと映るその顔は一体だれだったんだろうか?

「うん。そしたら……」僕が答えを最後まで待たずにその扉を閉めてその人は、どこかに行ってしまった。

僕ね、あのゲームが欲しいだ。みんな面白いし、いっしょにやろっていてくれるだよ。でもゲームは、高いからお菓子がいいな。最近チョコをつけて食べるお菓子が流行ってるんだよ。分かるかな?なんかこうぼうのながいとね、でもお菓子をいっぱい食べるとご飯が食べられなくなるからいいかな。

本当はね、ちょっとだけでもいいから。一緒にいてくれるだけでいいから。それだけでいいから。

その言葉が届くはずもなかった。もう扉は閉められている。その向こうには誰もいない。

ぼんやりとそんな事を思い出していると、トンネルの中の暗闇に電車が入った。

電車の窓に自分の顔が映しだされる。

その顔は、あの頃から変わらない。なんだか寂しそうな表情の君がいた。

ただただその顔をじっくりと眺めてみる。

ガタンコ゚トン

ガタンコ゚トン

次第にトンネルの暗闇を抜け、外が明るくなってくる。

窓に映し出された顔は、見えなくなった。

「……まもなく……到着します…」

車掌のアナウンスが聞こえる。

カバンに。携帯に。財布はあるな。

他に忘れ物がないか辺りを確認する。

隣の席に目をやると、さっきまであった温もりが初めからなかったというように元の状態になった。

駅に近づくつれ、電車が減速をし始めた。

扉の方へ向かうと薄く窓に自分の顔が映る。

車窓の窓に映る君はもういない。

やがて目的の駅に着くと、電車が止まった。

プシュー

扉が開く。

初めから決められていたかのように一步踏み出した。

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