僕は、とてもサウナが好きなので休みの日となると足繁く通っている。また、いつものように車にサウナに必要なタオルとパンツを積んで車に乗り込む。
飲み物も持って行きたい所だが、サウナ上がりに飲む冷えた牛乳もまた楽しみの一つにしてあるので、ここでは持って行かないことにした。
一人で行っても楽しむこともできるのだが、休みが合う友人と二人で行くのもそのサウナのコースの一部になるくらいに一緒に行っている。
やはり
一人で行くよりも誰かと一緒に汗を流した方がお互いにどこか達成感のようなものがある。
それもまた、違った楽しみ方の一つかもしれない。
スマホから友人に「もう、いまから出るね」と連絡をすると
お決まりのスタンプで返事が帰ってくる。
エンジンをかけて、友人の家まで車を向かわせる。
車は走しること20分、近くのトンネルをくぐり抜けると友人の家に到着した。
「着いたよ」と連絡をすると。
お決まりのスタンプで返事が帰ってくる。
今日は、どんな曲を流していこうかなとスマホの画面で悩んでいると、窓の向こうから歩いてくる人影が見える。
いつものように少しだけ眠そうなそんな雰囲気を出しながら。
「おっ」
「おっ、行くか!」
どんな曲がいいか結局決まらなかったのでいつもの曲をかけながら、サウナのある温泉に向かう事にした。
「今日、なにしてた?」僕は、友人に尋ねると、
「う~ん、なにも。」「そうか」
この会話もいつもの調子なので、いつも通りだなと思う。
車を20分程度走らせた先に温泉はあるので、友人の家から僕の家と変わらないくらいの距離にあるんだなとハンドルを握りながら考えていると、
「今日、混んでるかな?」
「変わらないんじゃない?なんで?」
「いや、なんとなく。」
「そうか」
僕は、信号に止まることなく、その信号を左に曲がり坂を登って行く。
細い路地のような場所を抜けると、近づいてくるのが分かる。
いつもの道を走っているので時間的な感覚も感じないくらいにあっという間に着いた。
駐車場を見ると、いつもよりも止まっている?
先ほどの友人との会話が脳裏をかすめる。
その発言をした友人は、まるで先程の事はとうに忘れてしまったのかというくらいに。
そそくさと温泉施設に向かってるが見えた。
まぁ、中にいけばいいか。
玄関で靴をしまい下駄箱の鍵を持って受付に向かう為に階段を登って行く。
受付に着くと、それほど混んでいるようすには見えなかった。
受付を済ませ、階段を降りて脱衣所に向かうことに。
脱衣所に入ると、少しだけ混んでいるように僕は感じた。
「今日、ちょっと混んでるな」
「えっ?あ、そうかな」
そうだよな。まぁいいか。
服を脱いで、湯気のあがる扉の向こうへと身体を進める。
腰掛けに腰をおろして腕、胸、おしり、足に最後に頭の順で
身体を洗っていく。
この施設では、内風呂と露天風呂が併設されている。露天風呂の向こう側に目的にしているサウナがある。
僕は、立ち上がり
内風呂の浴槽に身体を沈める。
ふぅっー
しばらくすると、一緒に来ていた友人も横に並んで、二人で内風呂で作戦会議を立てる。作戦会議を立てると言っても、ただサウナに何セット入るかを決めるだけの事である。
「今日は、4セットにする?」僕は、尋ねる。
「4セット?うーん、わかった。4セットにしよう!」
少しだけ、辛そうな表情を浮かべる友人をよそに”よし、がんばろ。”と自分を鼓舞していた。
2人で内風呂から出て、露天風呂との間にある扉を抜けようとすると…
入り口の横にある柱に捕まっているお爺さがいた。
何をしているんだろう?こんな所にいられては通行の妨げになるではないか。と少し不満を募らせていると。
そのお爺さんをよく見てみると、脚がおぼつかない様子で立ち上がる事が出来なくなっていたのだ。
“そうか、のぼせてしまったのか”と先ほどに抱いていた不満を反省して、お爺さんに声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫…ちょっと、立てなくなっただけだから。」
とお爺さんは答える。
僕は、それが大丈夫じゃないって事だよ。とツッコミを入れたくなるのを抑えて、再びお爺さんに声を掛ける。
「ちょっと、肩を貸してください。少し、歩きますがいいですか?」
そこは、熱いサウナから水風呂へ入り、最後に心身共に「整う」事が出来るスペースで僕もよく利用していた。
今日は、たまたま運良くそのスペースが空いてた。
ラッキー!と心の中でガッツポーズをとると、お爺さんの体に近づき肩に手を回して、「少し、歩きますよ」と声を掛けて、立ち上がらせる。
お爺さんと僕は、二人三脚をするような形で、一歩、一歩とゆっくりと歩を進めた。
「整う」スペースまで運んできた。
「そこで、ゆっくりして下さい」僕は言う。
「ありがとうね。」お爺さんは、お礼をつげて天を仰ぐようにと上を見ながらゆっくりと寝そべっていった。
「ごめん、サウナに行くか」と友人に声をかけた。
「大丈夫、あのお爺さん」と不安げな表情で聞いてくる。
「少し、のぼせただけでしょう。ゆっくりしておけば、大丈夫だよ。」
と友人の背中を軽く叩く。
サウナの横にある水風呂で身体を水をかける。
これが、正しいやり方は定かではないがサウナに入る前に身体を少し冷やすのがいいんだろあと毎回やっている。
だから、癖のようになっている所もある。
冷水で濡らした、タオルを持ちながら湯気が立ち込める中へ入って行く。
サウナに6分入って、水風呂へ1分、外気浴を3分と言うのが「整う」ためのルーティンである。
僕は、1セット目を終えて、水風呂、外気浴といつものようにセット数を重ねていく。2セット目も順調にサウナ、水風呂、外気浴とこなしていく。天気がいい日になると外気浴がとても気持ちいい。
寒い日には、凍えそうになる事もある。
そのまま勢いで3セット目に入る。サウナ、水風呂、外気浴と入って行く。
さすがに3セット目に入ってくる心臓が速く脈打つような感覚になってくる。少しだけ、いつもよりもきついのかもと不安な気持ちが顔を覗かせる。
そして、最後のセットにするになると特別ルールになる。
特別ルールとは、さきほどまでならサウナに入っているのが6分だったのが最後のセットだけは、時間を自由にしていいというものだ。
3分でもいいし、10分でもいいし、15分でも好きな時間に出る事が出来るというものになる。
だから、自分にあまりにも厳しいルールを課して無理に長く留まろうとすると、さきほどのお爺さんのようにのぼせる事になりかねないので注意が必要になってくる。
4セット目のサウナに向かうため、中に入って行く。
中に入り、時計をチラリと見ると、長針はちょうど12の位置を指していた。
このセットは、10分頑張ってみるか。
サウナの中では、テレビも備えてつけられているが、あまり見ないようにする。なぜなら、入っている時間にやっている番組が決まって刑事ものだったりする。すると、事件の犯人が気になるから長くい続けてしまう羽目になるからだ。
時計の針が4を指し始めた時、扉が開いた。
んっ?まさか?そんなことはないよな……
僕は、頭の中で答え合わせをするように問いかけてみる。
トビラを開けて、入ってきたのはさきほどのおじいさんではないか。
ここにくる前にあれだけ立ち上がれない状態だったのに。
体調が良くなったから、もう1セット入ろうかなって事か…
なんだか、自分がした親切が無下にされたような気持ちになって、沸々とどこか不満な気持ちを煮えたたぎらせていた。
針が10分を指し、僕は立ち上がりサウナを出る。
再び、おじいさんの方をチラリと見ると、タオルで顔を隠して、なんだか集中している様子だ。
外に出て、水風呂に向かって冷水に入っている最中もさきほどのおじいさんの事が頭から離れない。
外気浴に向かうために水風呂を出て「整い」スペースに向かってもさきほどのおじいさんの事が頭から離れない。
あんなにも大変な思いをしたのに…懲りずにまたもやっているなんて。
なんだか自分の中で、あのおじいさんに一言言ってやりたいという気持ちが募るようになった。
暫くすると、おじいさんがサウナから出てきた。
だが、このまま状態で言ってもただただ不満をぶつけるだけになるのではないか?
少しだけ落ち着くためにも湯船で心を整える事にした。
気持ちが落ち着いてきたので
帰り際、再びそのお爺さんに声を掛ける。
『怒りをぶつける為に言うのではない、ただ心配しているその気持ちを忘れてはいけない』と自分自身に暗示を掛けるように言い聞かせる。
優しい口調を忘れない。
心配しているだけ。
「お爺さん、もう大丈夫?」
「えっ?」
えっ?とは?先ほど助けた相手の顔も忘れてとは。
気を取り直して、もう一度具体的な場所を指差しながら聞いてみる。
「さっきそこで立てずに居たでしょ?ほらっあそこの辺で。」
「えっ?立てずに居ないですよ。」
「えっ?」
んっ?なんだか話が全然噛み合わない。どうしてだ。
ふとっサウナによく来ている常連さんの姿が目に入る。
んっ?その横には……
さきほど入り口の横で立てずに苦しんでいたおじいさんが常連さんに「ほどほどにしとけよ」
「あっ、気をつけないと」と楽しそうに会話をしていた。
では、僕が話しかけているこのお爺さんは、誰だ?
まさか、と思いよく見ると違う人ではないか。だけど、少し似てる。なんとも、まぎわらしい。
「あっ、ありがとうございます」
隣にいるおじいさんに声を掛けると足早に後にした。
サウナでは、ほどほどにします。そう、誓った日になった。
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